おもしろいかな算数(15) 古代の算数の教科書(セミナー通信 2021年10月号)
前回「養老律令」の「田令」という法律について書きました。この法律を実行するためには農作物の収穫量、戸籍、土地の面積などを記録し計算するために種々の算法が必要になります。
6世紀以降はそれまでの不確かな時代と違って文献などで明らかになった史実が多く、例えば538年に百済の聖明王から仏典と仏像が送られたということが分かっています。これが仏教伝来の年とされていますが、6世紀以前の九州と朝鮮半島の交流は想像以上に盛んであったと思われるので、すでに仏教やその他の文化は日本に(特に豊前の国に)伝わっていたと考えられます。
この正史に現れない文化や学問の流入が律令国家の礎を作っていたので、701年に大宝律令が発布できたのだと思います。
この時代の役人には学問が必要です。ですから養老令では教育制度について決められました。その中に算術についても決められていました。
このころの教科書は中国の漢の時代に作られた「九章算術」などの書物が使われました。弥生時代の終わりくらいには「数」とともに「算術」も大陸からの渡来人によって伝わっていたのではないでしょうか。
九章算術の内容は次のようなものです。
(1)方田:いろいろな形の田の面積の求め方。
(2)粟米:穀物の計算。交換率の計算。
(3)衰分:税金の配分計算
(4)小広:平方根 立方根。二次式、三次式の解法。
(5)商功:土木工事に関する問題。
(6)均輸:人口統計、物価計算。比例 反比例。
(7)盈不足:過不足算。(盈とはいっぱいになるという意味)
(8)方程:多元連立方程式。
(9)勾股:三角法、測量。三平方の定理から始まる。
この内容を見ると、現在の小学生から高校生までの算数や数学の内容と変わらない内容を学んでいたようです。但し、法則などという学問的なことよりも実用的な内容です。
実際の問題をいくつかあげてみます。
「孫子算経」という書物からまず「鶴亀算」です。
鶴亀算
今有雉兎同籠、上有三十五頭、下有九十四足、問雉兎各幾何
答曰 雉二十三 兎一十二
術曰 上置頭 下置足、半其足 以頭除足、以足
雉と兎が同じ籠の中にいる。頭の数は35である。足の数は94である。雉と兎はそれぞれ何匹いるか
答 雉23 兎12
解法 頭の数と足の数をそれぞれ算盤の上と下に置く
足の数を半分にし、その数から頭の数を引く(→兎の数)
頭の数から兎の数を引く(→雉の数)
最小公倍数
今有三女、長女五日一歸、中女四日一歸、少女三日一歸。
問、三女幾何日相會。
答曰、六十日。
術曰、置長女五日・中女四日・少女三日、於右方。各列一算於左方。維乘之、各得所到數。長女十二到、中女十五到、少女二十到。又各以歸 日乘到數、即得。
娘が3人いて仕事に出ている。長女は5日に1回帰り、中女は4日に1回帰り、少女は3日に1回帰る。
問 3人は何日ごとに会うか。
答 60日
解法 長女5日・中女4日・少女3日を右側に置く。各々の一算を左側に並べる。これらを維乗すれば、各々の到数、長女12到、中女15到、少女20到が得られる。また各々の帰る日を到数に掛ければ、答が得られる。
左 右 左 右 左 右
1 5 1×4×3 5 12 5
1 4 → 1×5×3 4 → 15 4
1 3 1×5×4 3 20 3
この問題は5,4,3が互いに素なのでこの方法で答えがでますが、そうでない場合は間違った答えが出ます。
次回も「孫子算経」の問題を解いてみましょう。